なごり雪

 テレビから「なごり雪」が流れてきた。

 歌い手さんが熱唱していたが、違うんだなあ、とおっさんの思考回路が回りだす。

 

 もっと淡々と切なく歌う歌なのに~。やっぱイルカでないとなあ、この歌の情景、いまどき分からない世界なのかなぁ、さだまさしの「案山子」もそうなのかなあ、上京ものだし。今も同じような境遇の人はいると思うけどなぁ。

 昭和丸出しの思考と昔の映像を思い出しながら頭がめぐる。

 

 この歌、「なごり雪」は僕の生まれた3月7日ぐらいの話だと勝手に思っている。

 

 日本気象協会が「なごり雪」を3月の(季節の言葉)に選んで、「立春を過ぎてから降る最後の雪」という説明だそうだが、この歌が出典だから、まちがいではなかろう。

 ところで、季節のうつろいは連続的で曖昧で、行ったり来たりする。その曖昧さが日本人の気質にも表れているのかもしれない。

 「はい、これから春ですよ」と決めたいけど(桜の開花宣言など)実際は、「ああ、まだ春こないね」「あらもう春だね」という行きつ戻りつを楽しんでいるのだ。

 なんか最近は気候が極端になって、三寒四温といえども3月上旬の結構な寒波は珍しくなくなった。でも以前は、3月の雪は珍しかったように思う。

 そしてその3月7日に降ったなごり雪が、この曲とシンクロして聞くたびに思いだす話がある。

 

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  入社して2、3年目のとき、3月7日に東京に雪が積もった。朝降りだした雪が昼にはみるみるビル街を白く染めていった。

 (誕生日に雪か―)って一人で感慨にふけって出社。ちょうどその日、入社予定者の研修で鹿児島から上京してきた高校生の女の子が、あいさつで「生まれて初めての雪なんで感動です」って言って、みんな「おおー!」って。

 その年の冬に会社でスキーに行った時、その子が滑っているのを見て「スキーも生まれて初でしょ?上手だね!」って言ったら「いやいや、転げまくって私だけ冷凍マグロっす。」って大笑い。

 仕事上ではほとんど接点はなかった子だが、この雪がらみの話のおかげでよく覚えている。あれから25年、あの子は元気だろうか。

 

それからもうひとつ思い出す。

 

 私の生まれた、まさにその日は雪が降っていたそうだ。

 当時住んでいたぼろアパートの二階で産気づいた母は、小雪のちらつく中、家から少しはなれた線路の向こうにある産婦人科病院まで、お腹を抱えながら自分で歩いて行ったそうだ。

 そして、僕が生まれた。

「あんたの生まれた日は寒かってん、3月やのに雪が降ってたんやで」って子供のころから聞かされた話。私にとっては直接の記憶ではないが、大切な母の思い出話であり、僕の人生初エピソード。

 

 で、それほどドラマチックな展開でもなく、なにがどうと言うことはないが、「なごり雪」を聞くとこの二つの話を思い出す。

 

 春に降る雪にはなにかしら感じ入ってしまう。そして嘘のように雪が跡形もなく消え、暖かい日差しになる。

 そしてそのときいつも思う。

 ああ、これで今年も春が来たなぁ。みんな元気でいるかなあ。

 桜の季節のほんの少し前の、なごり雪。自分にとっては少しだけ特別です。 

 

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